ゼロの使い魔 ハルケギニア南船北竜
第四十一話「次の一手」




 セルフィーユには仕事もあって税も安いらしい。

 リシャールがセルフィーユ男爵となって数ヶ月、いつの間にか、男爵領の近隣にはこのような噂が流れていた。
 王領から男爵領に変わってからは、倉庫が増えただの道が良くなっているだのと、行商人や旅人は口を揃えている。
 しかし、若い者がこぞってセルフィーユに向かうわけではなかった。彼らはやはり、同じ一旗揚げるならと、王都へと向かうのが常だった。
 だが、僅かながらにセルフィーユへと足を向ける者達もいた。彼らは王都までの旅費の工面が出来なかったり、単なる出稼ぎなら近い方が良いと割り切っていたりと様々だったが、いずれにしても地元よりも雰囲気が明るく拓けているとの感想を持った。

「順調、かなあ……」
 リシャールは、庁舎そばの練兵場に来ていた。もっとも、今のところは平地と丘を囲って立て札を立てただけの、単なる空き地に近い。設備と言っても、銃を買い付けてから簡単な射撃場を作ったぐらいで、あとは野っ原のまま使われている。
 現在は領軍の兵士も十名に増やし、訓練だけでなく実際の任務も行わせていた。今は当番でない四人ほどが濃緑の野戦服姿で走り込みをしている。ジャン・マルクは巡回に出ているのか、留守だった。
 もっとも、今のところは軍とは名ばかりの自警団に毛の生えたようなもので、戦場には間違っても出せないほどだ。いずれは名実ともに領軍として機能して貰いたいが、一朝一夕に練度や規模が上げられるわけもないから、こうして地道に訓練を続けさせるしかない。
 当初より予定を前倒しにして兵士の人数を増やした訳だが、これはセルフィーユの人口が着実に増えてきた為だ。
 今のところ、セルフィーユの領軍の任務は、城館の門衛兼シュレベールの巡回、ラマディエの巡回、行軍と護衛の訓練を兼ねた王都との往復の三種類のみで、複雑なことは行わせていないし、行えない。練度という点では、巡回を任せる事さえも怪しいものだが、今のうちに慣れさせるしかなかった。本格的に製鉄所や工場を建てて人を集め始めれば、今のように悠長なこともしていられないだろう。
 このうちの行軍訓練は、商人や旅行者が同行できるように前もって日時を知らせ、人を集めた。護衛任務も兼ねているのだ。今のところ野盗に襲われたことはなかったが、たまにそういった話もあるので、これには必ずジャン・マルク隊長が同行するようにしている。
 もっとも、傭兵崩れの魔法使いでも混じっているようなら、同行者を逃がして自分たちも逃げろと厳命してあった。まだそこまでの練度は期待できないし、せっかく鍛えられつつある兵士の命も惜しい。
 兵士達の装備の方も、無事に調った。基本的には草木染めした濃緑の上下に胸当て、鉄兜、手甲と脚絆を着けさせ、斧槍、短銃、短刀を持たせた。一人頭の装備の価格は、警邏に着る軍服や替えの物まで含めると二百エキュー余りにもなる。それでも、短銃はともかくも、その他の装備はリシャールの手製であるからこそ、ここまで安く揃えることが出来たのだ。錬金鍛冶様々である。
 リシャールの知る、現代兵士の着る物に似せた濃緑の軍服は、城館には針子が居ないので領内の主婦達を雇って作って貰ったものだ。ボタンの位置や数が各々で微妙に異なっていたりもするが、見た目はそれこそ目立たないので問題ない。普通の服より生地を丈夫にしたりポケットを増やしたり、わざわざ染めたりしたせいで、これまた結構な出費となった。偽装用の草木をつける紐にまで注文をつけたのは、昔見た戦争映画の影響だろうか。
 濃緑の上下には格好悪いと不満もあったようだが、儀礼や巡邏に使う軍服は別に用意していたし、野戦服については、リシャールが実際に身につけて『かくれんぼ』して見せたところ、誰も文句を言わなくなった。
 リシャールにはそれほど軍隊の知識があるわけではなかったが、ハルケギニアでよく見かける煌びやかな軍服と、前世で見慣れた軍服、いわゆる野戦服とでは、やはり後者が優れていると思った。特にうちは人数が少ないから、戦場では目立たない方がいいかなあと、こっそりジャン・マルクに漏らしたほどである。余談だが、アーシャは自分とお揃いの色だと喜んでいた。
 胸当てや手甲は先日王都で買ってきた物を見本に、リシャール自身が作った。買えば結構な値がするので、これは当然である。実際に短銃で撃ったり、ゴーレムに着せて剣で斬りかかってみたりと色々試した結果、買ってきた物よりも少し分厚くした上に、硬化の呪文を掛けてある。仕上げた物に裏張りや革紐を着けるのには、隣接する王領の皮職人に注文を出した。
 リシャールが防具を作ってみた感じたのは、剣ほどに精度を要求される物ではなかったが、品質では剣以上に素材に左右されたということだった。結局、剣と同じように硬い鋼と粘りのある鋼を鍛接して作ることにしたが、これはジャン・マルクが教えてくれた。
「大砲が届いたらこっちももう少し人数増やそうかな……」
 今でさえ、ジャン・マルクが数名を引き連れて王都との往復に出てしまうと、領内の警備でいっぱいいっぱいだ。副長格の人間が育ってくれるか雇えるか出来れば良いのだが、なかなかにそうも行かない。
 ともあれ、彼らにも頑張って貰わねばならなかった。今のところは喧嘩の仲裁や脱輪した馬車の片付けぐらいにしか出動していないが、天災などは相手も時期も選ばないのだ。

 実際に、セルフィーユの人口は増加している。リシャールが把握しているだけでも、屋敷のメイドのうちの半分は近くの他領の者だったし、庭師と従者の少年は住み込みと言うことで、やはり親子揃ってセルフィーユに越してきた人間だ。宿屋にもリュカの店にも余所から来たらしい新人が増えている。
 六百人と少しの領地に対しての十数人の人口流入は、割合にすれば二、三パーセントに当たるのだ。定住者の増加と考えればこれは大きい。
 もちろん、出稼ぎの労働者も増えてきていた。宿屋は寿司詰めに近い状態であり、一部の労働者は長期契約させて、兵舎の空き部屋を一時的に解放していたほどだ。今の時点で、既に家賃の安いアパートか集合住宅か長屋か、そのような類の施設も必要になっていた。とりあえず急ぎで二つほど作ったが、おそらくすぐに追加が必要となるだろう。
 倉庫の建築や道路の整備にも、人は使う。全部魔法でカタをつければ安くは済むが、それではリシャールが疲れすぎるし、領地に金も回らない。領民に苦役を課す方法もあるが、結局は現金や現物で入ってくる税収が減っていく上に管理も煩雑になりそうだったし、代価に困るほど手持ちの資金に不安があるわけでもなかったので、緊急時以外この手は使わないことにした。
 いま特に人を集めているのは、道路工事や倉庫などの建設関係を除けば、保存食を作る加工場だ。実質はリシャールの主導による男爵家直轄の加工場だが、表向きはラ・クラルテ商会の経営ということになっている。
 イワシに限らず、その他の魚介類も燻製や乾物、或いはイワシと同じように油や塩漬けにしたりと忙しい。規模はギーヴァルシュほどではないが、それでも暫くは困らない程度の蓄えにはなってきた。品質も特上とは言えないのでさほどの儲けにはならないが、余れば内陸部に運んで売ればいいだろう。こちらは目的が飢饉対策なので、商売も二の次にしていた。リシャールも、損が出ても良いと割り切っている。
 更には、新しく開いた鍛冶工房も既に稼働を始めていた。ゴーチェは言葉通り、流しの鍛冶師を素早くつかまえてくれたのだ。

 工房はシュレベールの村外れ、領内を貫いて流れる川のほとりに建てられている。
 ラマディエを一巡りした後、リシャールはアーシャに乗ってシュレベールへと向かった。城館までは歩いて数分の場所のこと、アーシャはそのままきゅーと鳴いてひとっ飛びで城館に戻っていった。
「こちらの様子はどうですか?」
「はい、順調でありますよ、領主様」
 ゴーチェが声をかけた流しの鍛冶屋のうちの一人、ディディエという男がセルフィーユに居着くことを決めた。リシャールは鍛冶師を呼ぶのに、最初に応えてくれるなら無料で住居を与えるという条件を出したので、話がまとまるのは早かった。鍛冶場の方には、水車が付属している。
 水車の方は、もちろん動力として使われていた。中央から粉挽き小屋を建てる職人を呼んで水車を作らせ、上下動するハンマーを設置したのだ。人手の募集に応じてやってきた領民や近隣からの出稼ぎ労働者の手間賃まで含めると結構な値になったが、次からは領内で作れるかも知れない。いくらセルフィーユが田舎でも木工を生業とする者はいた。彼らには手順も見せていたし、見本もある。
 この水車ハンマーは、城館の蒸気機関式送風機よりはかなり良い出来だったが、相変わらず『夏休みの自由研究』の域を出ていない効率の悪い代物だった。しかし、そこそこの重さの歯車を動かして臼も挽ける力は伊達ではなく、一抱えほどもあって並の人間には扱えない重さのハンマーを、がっちんがっちんと力強く動かすことが出来た。
 動力源があるならばと、ついでに回転する砥石も備えたから、仕上げ作業の効率も良くなった。こちらは元からハルケギニアにも存在した物なのでリシャールが奔走する必要はなく、職人達に任せた。
 リシャールは最初、水車ハンマーと製鋼に専念した。将来的には製鉄技術者を雇って大々的に品質の高い製鋼を行うにしても、今のところは少量でも良いから製品分の鋼を確保しなくてはならないと判断したのだ。
 買ってきた鉄塊を炉で熱して鍛えるのだが、これが一筋縄では行かなかった。職人や雇い手はもちろんのこと魔法も錬金も使えないので、リシャールが錬金で鍛えた鋼と同等の質の物にまで鍛えるのには結構な手間と炭が必要になったのだ。ディディエによれば、ある程度大量に作るなら、やはり蒸し焼きにした石炭から作ったコークスと大きな炉がないと、歩留まりも悪ければ費用も時間も嵩むらしい。
 その後、水車ハンマーには別に人を雇って鉄塊を鋼鉄に鍛えることだけを行わせ、ディディエは働き手の教育に専念させている。原始的ながらも、分業という生産方式を取り入れたのだ。前近代的な工場制手工業である。木を加工して拵えや持ち手を作る木工職人も育てていた。
 もちろん工業的にはそれほど進んでいないトリステインでも、王都のみならず大きな街にはそれなりの規模の工場も存在しているが、資本も技術もなく未発達なセルフィーユでは、今はこれが精一杯である。
 リシャールは全体を監督するようにと言い含めてディディエを親方に据え、働き手には一種類の鉄製品の作り方だけを徹底的に教え込むようにさせた。ディディエは剣を一から鍛えたりするほどの腕前は持っていなかったが、生活用品はリシャール以上に手慣れた様子で作れる技量を持っていた。品質の良い鋼を渡すとそれに見合った良品を仕上げていたので、リシャールも見習いの教育を任せている。今後は更に、一品だけの製造を覚えた徒弟を親方に準じる立場として作業の中心に据え、分業させる予定だ。分業後は、例えば、包丁を専門に作る工房ならば、大まかな形を整える者、鍛える者、研ぐ者、握りを取り付ける者といった具合に数人に作業を割り振り、少ない専門教育で実際の製造に取りかかれるようにと考えていた。
 今のところは教えることが主になっているので生産量は低いが、時にはリシャールも加わりながら、農具を中心に生活用品を作らせている。品質は上の下で留めておく代わりに、価格は中の上から並あたりを目標にしている。これらをベルヴィール号か、または領内の商人に卸していく予定だ。
 今は親方を含めて六人だけの小さな工房だったが、それでも分業による生産効率の向上で確実に利益は上がるだろう。その上、今後は専門工房としてそれぞれが独立する予定だから、生産力の向上まで期待できた。販売については、良い品を並品の値段で売るのだから、放っておいても売れていく。恐いのは同業他社、特に知名度も実力もあるゲルマニアの巻き返しであったが、トリステイン国内については輸送コストと関税の面からある程度までは無視しても良い。将来は製鉄所の完成で材料費も安くなり、競争力も更に高まる。
 鉄鉱石については、現在の所は捌けない分は野積みでもしておいて、製鉄所が出来てから手を着ければいいかとさえ、リシャールは考えていた。
「今のところはこのあたりが手一杯かなあ」
「先に教え始めた鍬の方は割と形になってきました、領主様」
「完全に任せられるようになったら教えて下さい。
 鍛冶場をもう一棟と、それから宿舎も建て増ししましょう」
「はい、領主様」
 こちらも順調なようだとリシャールは頷き返して、工房を後にした。

「リシャール様、アルトワのクリストフ様からお手紙が届いておりますわ」
 城館に戻ったリシャールは着替えてから執務室へと向かい、一服しながら手渡された手紙を開いた。
 最近は、ヴァレリーにも多少の余裕が出来る程度には館が回っている。こうしてリシャールのお茶の相手をしてくれているのが何よりの証拠だ。少なくとも、掃除、洗濯、食事などの平常業務については、指示を出さなくとも良くなっている。特に、まともな料理人を雇えたことは大きかった。これでかなりヴァレリーの負担が減っている。魅惑の妖精亭の主人スカロンに相談したところ、紹介してくれたのだ。
 だが、多少なりとも雇い入れた使用人達が、ここでの仕事に慣れてきた証拠でもあった。屋敷こそ大きいものの、調度品などが普通の屋敷に比べて極端に少なかったり、使われていない部屋の多くが締め切られていたりする事もある。
「ああ、ヴァレリーさん。
 手紙の方ですが、近いうちに母か兄をこちらに寄越して貰えるそうですよ」
「かしこまりました。
 お部屋の準備をしておくことにいたします」
「ええ、お願いしますね」
 こちらも一つ、懸案が解決に向かったようであった。
「ああそうでした、もう一つお願いがあるんです。
 屋敷で雇う人数をもう少し増やしたいんですけれど……」
「今ならば多少は余裕も出てきましたから、最初ほどは慌てなくても大丈夫かと思いますわ」
「ええ。
 ただ、新しく雇う人は、将来的には屋敷の方ではなくて、庁舎の方で働いて貰いたいんですよ。
 屋敷はヴァレリーさんのおかげもあってかなりまともになってきましたけれど、庁舎の方はマルグリットさんに負担が行きすぎてますからね。
 文字の読み書きや計数のさわりだけは、こちらで働いて貰いながら重点的に教えるようにしたいんです」
 とは言いつつも、なかなかに難しいのはリシャールにもわかっていた。屋敷内で教師役となれるのはリシャールとヴァレリー。……なのだが、それぞれに忙しい。
「義父にお願いしてみましょうか」
「ジャン・マルク殿のお父上ですか?」
 ジャン・マルクの父バチストは元軍人だったが、文字の読み書きが出来るので、日によって庁舎で手伝いをして貰っていた。今朝はマルグリットと共に馬車で屋敷を出ている。ちなみに夫人の方はヴァレリーも含めたメイド達の相談役として、屋敷に控えて貰っていた。
「なるほど、庁舎で仕事をして貰うよりは、気楽に構えて貰えるかも知れませんね。
 帰って来られたら相談してみましょう」
「はい」

 すぐに効果の出るものではないが、識字率の向上には本格的に取り組まないといけないなと、リシャールは考えてもいた。青写真もできている。
 ただ、祖父からは釘を刺されてもいた。
 曰く、平民に知恵をつけすぎては、自らの首を絞めることになろう、と。
 確かに取り扱いの難しい問題であったが、リシャールは一定の結論を出していた。領地の経営に必要な人数で留めず、その枠を越えて識字率の向上を目指すことに決めたのだ。色々考えては見たが、やはり労働力の質的向上は見逃せないものがある。特に、大量生産に絡む品質管理や安全工学については大きく影響するだろう。数字の意味を知らない労働者では、手工業の範囲を超えて物を作ることは出来ない。
 ハルケギニアでは、どちらかと言えば文字や学問は特権階級の所有物なのだとリシャールは見ている。書物の価格は平民が気軽に買えるような価格ではなかったし、品数も少ない。文字の読み書きや四則演算を含む計数などは、現代社会での資格や免許に通じる扱いで、基本教養ではない。文字が書ければ、それだけで書記や代書屋の仕事にありつくことも出来た。
 書物には現代社会のように娯楽の一端としての側面もないわけではなかったが、一般に浸透しているとはとても言えなかった。安い本でも数十スゥはするのだ。これは平民の平均的日当以上の金額であったから、奢多品の範疇になる。その上、文字を読めなくては意味のない代物だった。歓楽街にでも行けば、それより安くて楽しい物は沢山ある。
 流石にリシャールも、義務教育のようなものにまで手を着けるつもりはなかった。セルフィーユの人口は六百人余り、子供の数を考えれば財政的には無理せずとも学校の立ち上げは可能であったが、悪目立ちし過ぎるのだ。下手を打てば貴族からのみならず、教会からも異端視されかねない。
 リシャールは、ラ・クラルテ商会の下働き、もしくは屋敷の見習いとして子供を雇い入れ、その一環として雇った全員にある程度の教育を施すことを目指していた。これならば、既存の方式よりも少々大きい程度との解釈で済ませられる。
 子供は家庭にとっては負担であると同時に、貴重な労働力でもある。無償の教育を謳っても、子供を差し出す家庭は少ないだろうとの予測もあった。そこで下働きとして給金を払い、『雇う』という体裁をつければと、考えていた。頭角を現すようなら、それこそ正式に家臣団に招き入れて更に高度な教育を施せばよいし、そうでなくとも、読み書き計数が出来る労働者はいくらでも欲しいところだった。
 当面は屋敷で小規模に行うにしても、将来的には教師役も増やして庁舎の一室を使う程度には『雇う』人数を増やしていきたい。リシャールはそう考えていた。

 売った品物の金額が計算出来ない商人。
 屋敷に届けられた手紙の宛名が読めない従者。

 いかにも困る。
 故に、雇用人に仕事上必要な教育を施す。これならば、対外的にも言い訳が立つのだ。

 そんな事を考えていた数日後。
 リシャールは、先日と同じく領内を見回った後、午後は庁舎の方の執務室で、翌日行う予定になっている布告の下準備に追われていた。領内に対して行う布告なのだが、どちらかと言えば公報に近いものだ。
 今回は城館の下働きの追加募集や新しく開墾する予定地の発表とともに、領内の交通量が増えてきたので、馬車の事故には気を付けるようにと注意する内容だった。これを兵士に持たせて、巡回のついでに領民に伝えて回らせ、高札に貼っていくのだ。時には領地内外の情報についても伝えたりするので、新聞的な側面もある。
 しかし、領主のお触れと言うよりも、これじゃあまるで市役所の出す市民便りだなあと、書いているリシャールも苦笑するしかない。
 しかし、大まかな内容をかき上げた頃、珍しく慌てた様子のマルグリットがリシャールの元に駆け込んできた。
「リシャール様、大変です!」
「マルグリットさん?」
「お客様です!
 アルトワの公子様が!!」
「ええっ!?」

 アルトワ伯クリストフは、身内を驚かすのが好きな人物だった。
 アルトワの公子クロードとは家族同然の付き合いもあったし、今となっては親友と呼んでも差し支えない相手である。喜んで迎え入れるべき相手だ。
 兄か母をセルフィーユに派遣して欲しいと、頼んでいたし了承もされていた。

 しかし、それにかこつけてクロードまで来るとは。
 せめて手紙に書いておいて欲しかったと、リシャールは頭を抱えた。






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