2009年9月24日付 読売新聞 社説

 

鳩山環境演説 国内合意なき25%削減の表明

 

 

 温室効果ガスの排出量を、2020年までに1990年比で25%削減する――。鳩山首相が、日本の温暖化対策の中期目標を、国連の気候変動首脳級会合で言明した。

 

 国内的な合意ができていない中、内閣発足直後にこれほど重要な国際公約を一方的に宣言する必要があったのか、疑問である。

 

 最も懸念されるのは、この数値が独り歩きすることだ。

 

 鳩山首相は演説で、「すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意が、我が国の国際社会への約束の前提となる」と述べた。

 

 「25%削減」は、主要排出国が厳しい削減目標を設定するのが条件というわけだ。

 

 「90年比25%減」は、05年比に直すと30%減となり、米国の14%減、欧州連合(EU)の13%減と比べ、突出している。いかに国際的な公平性を担保するのか。

 

 12月が交渉期限の「ポスト京都議定書」は、鳩山首相も言うように、「公平かつ実効性のある枠組み」でなければならない。それが、日本にとって不利な削減目標を課せられた京都議定書の教訓だ。

 

 そうであるなら、今後の国際交渉は、日本にとって極めて重要になる。鳩山内閣の外交手腕が問われるのは、これからである。

 

 「実効性」の観点で最も大切なのは、米国と中国の排出量をいかに減らすかということだ。

 

 世界全体の中で、日本の排出量は約4%に過ぎない。それに対し、米国と中国は、それぞれ約20%を占めている。

 

 オバマ米大統領は演説で、再生可能エネルギーの利用促進など、自国の取り組み例を挙げ、排出削減に意欲を示した。

 

 だが、米国が今後の交渉で、日本と同レベルの削減目標を受け入れるかどうかは、不透明だ。

 

 鳩山首相は「鳩山イニシアチブ」として、途上国への資金支援、技術支援構想を打ち出した。重要なのは、支援の見返りとして、中国など途上国に、削減の責任を確実に負わせることだ。

 

 今後、米国、中国を引き込む困難な国際交渉が控える一方で、国内でも「25%減」の合意作りは、容易ではあるまい。産業界の反発は、依然として強い。

 

 首相は、目標達成のために、国内排出量取引制度の創設や、地球温暖化対策税の検討などを挙げたが、これらの施策が、景気回復の足かせとなる恐れもある。

 

 経済活動を停滞させずに、排出削減をどう実現するのか。首相は早急に道筋を示す必要がある。

 

(C)読売新聞

 

 

2009年9月24日付 産経新聞 主張

 

「25%削減」公約 国民の負担増にも説明を

 

 

 鳩山由紀夫首相が国連本部で開かれた気候変動首脳会合に出席し、1990年比で25%減という日本の温室効果ガスの新たな削減目標を発表した。予想されたとはいえ、米国や欧州を上回る「野心的な」目標に、会場から大きな拍手がわき起こった。

 

 しかし、実現に極めて問題の多い数字を国際公約として約束したことは遺憾としか言いようがない。前提条件を付けてはいるが、取り返しのつかないことになりはしないか、懸念する。

 

 首相は「政治の意思として国内排出量取引制度や、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度の導入、地球温暖化対策税(環境税)の検討をはじめとして、あらゆる政策を総動員して実現を目指す」と決意を語った。

 

 目標実現には、1世帯当たり年36万円の負担が必要とも試算されている。負担が大きすぎれば国民の協力は得られまい。首相は演説で「産業革命以来続いてきた社会構造を転換し、持続可能な社会をつくる」と説明したが、具体的な青写真があるわけではない。

 

 さらに問題なのは将来、目標達成不足分を外国から排出枠として購入し、埋め合わせる可能性が高い点だ。日本は省エネが相当進んでいるため、京都議定書で約束した6%削減さえ実現が難しい。欧米の金融機関などはすでに、日本の購入を見越して、中国国内などで排出枠の“先物”を手当てしているとの情報さえ聞こえている。税金がこうした形で使われることは、本末転倒だ。

 

 首脳会合ではオバマ米大統領や胡錦濤中国国家主席も演説した。だが、決意を表明した程度で具体的数値目標は示さなかった。両国とも理想とは別に、自国の経済的負担を軽くし、いかに利益を勝ち取るかを話し合う場であると知り尽くしているからだろう。

 

 日本が身の丈を超えたハードルを掲げるにしても、世界総量の約20%ずつを排出する米国と中国が、京都議定書後の新たな国際ルールの枠組みに積極参加することは必須条件だ。鳩山首相が演説で「すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意が約束の前提」とした点は、交渉上の重要な切り札として譲ってはなるまい。

 

 「友愛精神」だけでは通用しないのが、国際交渉の現実である。日本だけが重い削減義務を負った京都議定書の二の舞いとしてはいけない。

 

(C)産経新聞