ゼロの使い魔 ハルケギニア南船北竜
第四十九話「製鉄所」




「閣下、自分がフロランであります」
 リシャール待望の製鉄技師が、ついにセルフィーユに派遣されてきた。
 マザリーニからの紹介状には、ラ・ロシェールで空海軍のフネの兵器や艤装品を製造している造兵工廠からの派遣であり、貸し出しが出来るのは三ヶ月であると念を押してあった。忙しくなりそうである。
 フロランはリシャールの父とそう変わらない年齢の男で、十五で軍に入って補給部隊や砲兵隊に属し、退役後に工廠の方で二十年近くも経験を積んだベテランだという。
「私がセルフィーユ男爵家のリシャールです。
 まずは長旅お疲れさまでした。
 早速で申し訳ないのですが……製鉄所の立ち上げ期間として三ヶ月というのは長いのですか、短いのですか?」
「そうですな……製鉄所建設の期間としてはそれなりですが、まともな稼働が出来るようになるには少々短い、と申し上げておきます」
「わかりました。
 私もなるべくそちらに専念できるようにします」
 リシャールはフロランと握手を交わした。

 まずは、フロランと候補地の確認をする。
 港から離れすぎない位置がよいのだが、製鉄所と港の間に工場を置きたいので、製鉄所の製鋼能力の規模から算定せねばならなかった。予定していたラマディエの海岸は基本的に男爵家の直轄地だが、領民が漁船溜まりにしていたり、ラ・クラルテ商会の水産加工場があったりと、少々面倒なことにはなっている。後者はともかくも、漁民には立ち退き料を手厚く支払うぐらいしか対処がなかった。
「閣下、無理に港にこだわられなくても良いのではないでしょうか。
 いずれにしても石炭や製品の積み卸しに桟橋をお作りになられるのですから、工場の立地に近い場所に専用の港をお作りになっては?」
「なるほど……」
 宿舎なども必要になろうし、いっそシュレベールから下っている主領道を街道を跨いで真っ直ぐ伸ばし、誰も住んでいない石だらけの海岸を丸々使うか。ラマディエの外れからの距離は徒歩で約十五分、少々遠いが悪くないかも知れない。規模を拡大するにしても、海側だけでなく陸側にも余裕があるのも良い。
「そうですね、後で下見に行きましょう」
「はい、閣下」
 その後、フロランを講師に実際の製鉄に関する簡単な講義を受け、リシャールも自身の思い描くセルフィーユの未来図を彼に語って意見を乞うた。望んだ家庭教師とは少々異なるが、これもまた一つの勉強であり、実務面だけでなくリシャールの知的好奇心をもフロランは満足させた。
 また、彼が平民であったことは、リシャールを非常に驚かせた。聞けばそれなりに仕事を任されているようで、この短い講義でリシャールも理解したが、かなり優秀な人物であった。
 その日のうちに、フロランもアーシャに乗せて下見に行き、大まかな線引きを済ませた。
 主要な施設は、石炭を蒸し焼きにしてコークスを得るコークス炉、鉄鉱石を溶かして鉄材にする溶鉱炉、出来た鉄材を精錬して鋼鉄を得る精錬炉の三つ。付帯の施設として、出来た鋼鉄を扱いやすい大きさにする加工場、事務所に宿舎、倉庫類。これらを規模に応じて効率よく配置するのだが……。
「職人を育てることも必要ですし、最初は小規模なものを一組作って、とにかく運用してしまいましょう」
 リシャールは割に小心なところがあるので、何事も試してみなければ心配なのである。
 しかし、どうもいけない。最近は錬金魔術師と言うよりは土木魔術師と名乗った方がしっくりくるかも知れないと、密かにため息をついた。
 翌日からは、働き手の募集に石炭や石灰の発注と、方々に布告を飛ばし、製鉄所稼働に向けて領内に働きかけた。リシャール自身は、既に顔なじみになっている数人の建設作業員とともに、製鉄所の基礎工事に着手する。
 合間には休憩日を設け、領主の仕事もせねばならなかったが、それでも二週間ほどで三種類の炉と仮の加工場、事務所兼宿舎が完成した。

「セルフィーユの新しき鉄の礎に、始祖ブリミルの御加護と恩寵を」
 完成の翌日、フロラン以下募集に応じて集まった働き手に加えて、リュカ、ゴーチェ、ダニエルら各町村の代表、鍛冶工房の方からもディディエらを呼び、更にはセルフィーユ司教であるクレメンテも招いて祝福を授けて貰い、火入れ式っぽい何かを行った。もちろん、リシャールの発案である。
 どちらかといえば、領内に向けて本気で鉄を作るのだと知らしめる意味合いが大きい。
 これからここは『ラ・クラルテ商会セルフィーユ製鉄所』として実際に操業を始め、鋼鉄を作る。リシャールももちろん参加するが、基本的には鍛冶工房と同じように、雇い入れた働き手達に任せようと思っている。
 全てに関わってはいられない、というのが本音だった。そうでなくとも、最近は領地を離れてあちこちを行き来していることも多い。また、土木魔術師として自身を使うことで領内のインフラ整備が格安で済むし、錬金鍛冶師としては借金の返済に追われているのだ。
 火入れ式が終わってコークスが蒸される煙を見ながら、リシャールはなんとか銃砲職人も早期に招聘できないものかと考えていた。

 数日後、リシャールは再び城でフロランと会合を持っていた。
 結果的に言えば、コークスを作って鉄材を作り出すことまでは成功したのだが、鋼鉄は出来が悪すぎて失敗に終わったのだ。
「どうも、混じり物が抜けきっていなかったようでして……。
 精錬の工程で作業時間を伸ばせば、解決すると思います」
 フロランが言うには、出来上がった鋼鉄を薄板に伸ばして出来上がり具合を試したところ、硬いには硬いが、脆いものになってしまったのだそうだ。これでは使い物にならない。どうも、精錬炉を小型にし過ぎてしまった故の弊害が出たようだった。
「了解しました。
 とりあえず、本式の精錬炉を作るときにも注意を払うようにしましょう」
「はい、記録につけておきます」
「記録?」
 フロランは製鉄所のついでに、鉄の研究でもしているのだろうか。
「はい、鉄鉱石の原産地によっても出来上がりは変わりますから、必要なコークスや石灰の量、溶解時間や精錬時間も微妙に変えなくてはなりません。
 コークスなどは少々蒸し焼き時間や温度を変えても、出来上がったものはどちらかと言えば産地によって左右されるのですが、鉄鉱石の方は逆に出来上がった鉄鋼の方を一定の水準にしなくてはなりませんから……」
「なるほど」
 流石に軍事関連の施設では、初歩的ながら生産管理がなされているようである。例えば、作った大砲の性能にばらつきがありすぎては、扱う方だって困るのだ。
「私はこちらの鉄鉱石を見てゲルマニア北部産の物に質が近いのではないかと思い、その方法に従って先ずは手順通りに進めてみました。
 しかし出来上がりを検分すると、時間が少々短かったように思えたのです」
 フロランの説明を受けて、リシャールも納得した。彼のような、基本に忠実で目端の利く人材を遣わしてくれたマザリーニには、大感謝である。

 更に数日後、今度は無事に成功したので、実際に働き手達だけで全ての工程がこなせるかに重点を置いて、再び一から製鉄を進めて貰う。出来上がった鉄鋼は、人でもそれほど問題なく持ち運べる一つ二十リーブル、約九キログラム半の棒状に加工して倉庫に積み上げていった。一部は既にディディエの元に送られ、包丁や鎌の製造に使われている。鉄塊から鍛えるより手間も必要な工程も、ついでに時間と炭も少なくて済むようになったとディディエはほくほく顔であった。
 リシャールも試しに一本『亜人切り』を鍛えてみたが、これほど作業が楽になるとは考えてもいなかった。特に材料を鍛える工程のうち、時間のかかっていた硬い鋼を作り出す手間が従来の四半分程度で済むようになったのは非常にありがたいことだった。
「フロラン殿、こちらの試験炉での製鋼作業と平行して、そろそろ本格的に設備を作っていこうと思います。
 そこで相談事があるんですが、一緒に考えて貰えませんか?」
「はい、なんでしょう?」
 リシャールは、気付いたことや希望をフロランに語った。
 まずは、熱効率の改善である。
 排出される煙を用いて湯を沸かし、蒸気で風車を回すリシャールの考案した蒸気機関の改良型を取り付けるのだ。単に風車を回して風を送るのではなく、外気の供給路を煙突を巻くようにして風路を作り、冷風を熱風に育て上げれば炉の温度も上昇が早くてコークスの消費が少ないのではないかと考えた。
 次に、煤煙対策である。
 これは煙路に幾層かの金網を仕掛けて、煤を取り除くことと、大きな火の粉が外に出ないようにする仕掛けだ。煤けたセルフィーユはなるべく見たくなかったし、火事などは御免被るのだ。
 最後に……。
「実は溶鉱炉から出る残りカスをどうしたらよいものかと……。
 あんなに大量とは思わなかったんですよ」
 いわゆる産業廃棄物である。錬金して何かに使うにしても、余りに量が多いので途方に暮れていたのだ。毎回の作業であれほど出てくるのでは、処分のしようもない。
「ああ、鉱滓ですね!
 申し訳ない、すっかり忘れていました。
 あれは焼き固めて煉瓦になさると良いでしょう。
 鉄鉱石の産地によって出来上がりの色が微妙に違うので、面白いですよ」
「助かりました……」
 確かにセルフィーユの製鉄所だけが、大量の鉱滓を出す訳ではなかったから、やはり、きちんと解決法はあったようである。リシャールは、早速煉瓦を作る働き手も募集することに決めた。
 その後、おおまかな概念図を作ってフロランと幾度か検討を重ね、当初の規模はコークス炉二機、溶鉱炉三機、精錬炉三機を中心に、その他の施設を配置することに決めた。
 これで最終的には工員約三十名を配置して、月産で粗鋼二十五万リーブルが生産ができるようになる。
 特に、倉庫は大幅に数を増やしても大丈夫なように、区画を予め準備しておいた。船で運ばれてくる石炭が悪天候で到着せずに生産が止まったなどとなっては、確実に大損するからである。備蓄は大事なのだ。

 しかし一度は作ったとは言え、今度は規模も大きくなってしまったので、建設にはほぼ年内を使い切ってしまいそうだった。余計な設備を取り付けたせいでもあったが、合間に錬金鍛冶や領主としての仕事もあるので、これは仕方ない。
 その間にも、ベルヴィール号やアルトワのセルジュらを使って石炭を大量に買い付けたり、シュレベールの鉱山を増員したりと、本格的稼働に向けての準備は着々と進められていった。
「フロラン殿、この鋼材は実際どうでしょう。
 マスケット銃や大砲の材料に使えるでしょうか?」
「大丈夫だと思います。向こうで作っている鋼材以上の物ですし……。
 ただ、マスケット銃はともかくも、大砲の量産には莫大な投資と技術力が必要になるでしょうな。
 土のメイジも、閣下お一人ではとても足りないと思います」
「なるほど、土のメイジですか……」
 やはり少し手の込んだことを行おうとすれば、技術よりも魔法に頼る部分が大きいのだなとリシャールは思った。
「固定化と硬化、ですか」
「はい。特に錬金と固定化は重要ですね。
 砲の強度は、最終的にはメイジの腕次第ですからな。
 ああ、もちろん本当によい鋼材があれば、メイジ云々以前に砲自体の性能を引き上げることも可能です」
 なるほど、剣の生産と似通った部分もあるのだなと、リシャールは一人ごちた。
「となると、強度の問題を解決すれば……いや、一朝一夕にはいかないでしょうが、研究してみる価値はありそうですね」
「閣下御自らが研究を?」
 フロランは、驚いているようだった。
「もちろんですとも。
 私は剣も鍛えますが、魔法で強化するにしても、やはり元の強度が高ければそれだけ強い物が出来上がるので、日々研究は欠かせません。
 最近は追われて作ることも多いのですが……。
 あ、そうだ。城の鍛冶場を案内してませんでしたね。
 ちょっと着いてきて下さい」
 リシャールはフロランを誘って、鍛冶場へ向かった。
「ここで剣や胸当てを鍛えているのですが……」
「閣下、こちらの剣を見せていただいてもよろしいですか?」
 フロランの目つきが、一瞬で技術者のそれから研究者のそれへと変わっていた。ふと義理の姉を思い出す。
「それはまだ焼き入れも焼き戻しも魔法処理もしていない、製造途中の物ですよ。
 完成品はこちらです」
「いや、ちょっとお持ち下さい閣下!
 この剣に使われている鋼は、どこで手に入れられたのですか?」
「え!?
 その剣はフロラン殿が二回目に成功させたものを、工房で刃鋼に鍛錬して、それを試しに鍛えただけですよ?」
「ええっ!?」
 リシャールには、フロランが何に驚いているのかさっぱりだった。いつもより楽に鍛冶仕事が進んだので、手間が省けて素晴らしいとは思っていたが、指導したフロランが驚くようなものとは思えない。
「あのー、フロラン殿?」
「これだけの質の鋼は、私も見るのは初めてです。
 これを大量に得られるならば……」
 フロランは拳を握りしめ、リシャールをしっかりと見据えた。
「ゲルマニアに負けない大砲を、必ず作ってみせます」
 悔しさや、何かの決意のようなものまで浮かべて、フロランは言い切った。
 リシャールはぽかんとして、それからフロランに訊ねてみた。
「あの、フロラン殿。
 ……あなたは製鉄技師ではないのですか?」
「製鉄技師でもありますが、砲熕兵器の製造が本職です。
 その、メイジではないので、製鉄はともかく、大砲については大きな仕事を任されることなど殆どありませんが……」
「なるほど」
 是非ともセルフィーユに欲しい人材である。
 リシャールは、率直に聞いてみた。
「フロラン殿、うちで大砲作ってくれませんか」
「……よろしいのですか?」
「うちでよろしければ」
「是非もありません、よろしくお願いします」
 最初の時と同じように、リシャールとフロランはがっちりと握手を交わした。

 年末が近づいて製鉄所建設も佳境に入った頃、リシャールの元に一通の書状が送られてきた。
 署名はアンリエッタ・ド・トリステイン殿下、内容は年始を祝う祝賀会への招待であった。
「あー、これも貴族の務めですか」
「でも、おそらくリシャール様に親しい方々もお見えになるのではないですか?」
「そうですねえ……」
 ヴァレリーに手ずから入れて貰った茶を飲みながら、リシャールは頭を掻いた。
 招待されて王宮に向かうとなれば、アーシャに乗って身一つでというわけにもいかず、困ったものであった。返済のための小切手も用意出来ていたから、問題はないのだが、面倒だなという思いが先に立つ。
「人選は、僕はアーシャで行くからよいとして、ヴァレリーさんに加えてメイドと従者から一人づつ……というところですかね?」
「そうですわね」
「ああっと、フロラン殿はどうしよう……」
「あの方も行かれるのですか?」
「一応引き抜いてしまうことになるんで、猊下……宰相閣下への挨拶には一緒に来て貰おうかと思っています」
 なるべくマザリーニには不義理はしたくなかったのだから、これは仕方がない。直接頭を下げておいた方がよいだろう。
「でも、乗用馬車は一台ですから……」
「……フロラン殿にはアーシャに同乗して貰いましょうか」
 申し訳ないながら、移動時間も短縮できる。フロランはトリスタニア経由で一旦ラ・ロシェールに返し、家族と共にこちらへと戻って貰えば良いだろう。それはそれとして、もう一台か二台、乗用馬車を買う必要があるかも知れない。
「では、そのようにして王都行きの準備を進めてまいりましょう」
「ええ、お願いします」
 休憩終わり。
 リシャールは鍛冶場へ、ヴァレリーは奥向きへとそれぞれの仕事に戻った。

 最近、リシャールは作業や執務の終わった後など、フロランと二人で城の執務室に篭もって、工場やそこで作る予定の銃や砲のことについてあれこれ議論を交わしていた。
 暖炉には、コークスがくべられている。大量生産によって、セルフィーユ領内では木炭を駆逐する勢いであった。木炭よりも値段が安くて火力も強いが、使い勝手から言うと、リシャールの錬金鍛冶や鍛冶工房での作業にはコークスよりも木炭の方が向いていた。それぞれ一長一短があるようだ。
「当初は銃と砲が一種類ずつ、生産が軌道に乗ってきてからは、数量と共に種類を増やす、というあたりでしょうな」
「はい、工場も最初は一棟か二棟ぐらいから始めないと、収拾がつかなくなるでしょうから……」
 分業させるとは言っても、素人を使える働き手に育て上げるのには時間もかかる。まして、工作精度や品質管理については、繰り返し根気よく教え込んでいく必要があろう。
 屋敷で面倒を見ている従者見習い達がものになってきたら、工場の方に品質管理の担当として採用するのもいいかもしれない。
「試射や実験は、練兵場の方で行うことになるんですね?」
「ええ、小さなものなら今も実際に射撃したりしてますから大丈夫です。
 大きい物は、それこそ海に向けて撃たないとちょっと困ったことになるでしょうけれど……」
 実際、買い付けた四リーブル砲は領軍で使用している。
「最初は奇をてらわない一般的な銃と、価格も安く取り回しも楽な小口径砲にするのが無難でしょうな」
「ええ、それから価格の方は最大でも従来品の市場価格と同等程度に押さえたいです。
 高価格しかし高品質、というのでも良いですが、最初から無理は出来ません。
 予定の性能を確保しつつ、どれだけ安価に生産できるかが課題ですね」
 実はもう一つ、生産には直接関わらないが、工場の警備や機密漏洩への対策をどうするかという問題もあったのだが、領軍を増やすことと、なるべく身元のしっかりした人間を雇うことにするぐらいしか思いつかなかった。
 製鉄所の方はともかくも、兵器工場の方は流石に多少気を使った方がよいだろう。火薬に火を付けられたりでもすれば、目も当てられない。
 どうやら、また出費が増えるらしかった。

「ではフロラン殿、向こうでお会いしましょう
 ヴァレリーさんもよろしくお願いします」
「はい、お先に向かわせていただきます」
 二日後にはリシャールもアーシャで王都に向かうのだが、馬車はそこまで速くないのでいつものように先行して貰うことになる。
 結局、フロランもこちらに便乗して貰うことにして、男爵家からは今回もう一台、『亜人斬り』や防具などと一緒に護衛の兵士を乗せた幌のある荷馬車がついていくことになった。帰りには乗用馬車を三台に増やして帰ってくる予定だ。他に、リュカの馬車なども同行する。彼もセルフィーユの好景気に便乗して、荷馬車を増やした口だった。
 来年は、もう少し状況が好転すると良いなあと、リシャールは思った。
 領地は好景気でも、ゆっくりする暇もなかったのだ。
 セルフィーユを出発して行く王都往復便を見送ったリシャールは、一つ伸びをしてから庁舎に戻っていった。
 庁舎の中は今、戦場だ。年明けに納める王税の集計と用意すべき書類の作成に、猫の手も借りたいほど追われている。
 これらを片付けてしまわねば、年も明けない。
 セルフィーユに限らず、年末の役所はみな忙しいのだ。






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