ゼロの使い魔 ハルケギニア南船北竜
第三十二話「報告」ラマディエとシュレベ−ルの下見を終えたリシャールは、翌日の昼過ぎには王都にある祖父の屋敷へと戻っていた。 ヴァリエール公からの手紙を渡された祖父モリスは、一読するとギーヴァルシュ侯の屋敷へと急ぎ馬車を走らせた。もちろん、リシャールも同乗している。 「しかし、公爵家の娘を射止めたか! なんともなんとも!」 祖父は、自分が孫の嫁を探すと言っていた事も忘れて上機嫌であった。 「で、美人か?」 「もちろんです」 「うむ、でかした」 侯爵家に着くまでは、そのような会話が続けられた。 ギーヴァルシュの屋敷でアルチュールも交えて話し合い、今後の予定が大きく前倒しになることが確認された。王都にいないアルトワ伯には、後ほど知らせることになった。 「ほう、公爵直々の推薦状か」 「アル、貴族院の方はどうなっとる?」 「ふん、まだ一週間と経っておらんのだぞ? 何人かと会う約束は取り付けたがな、実際の交渉には入っておらん。 しかし、これがあるとないとでは大違いだぞ。 なにより、費用が激減するわ」 「そこはほれ、これを引き出してきたリシャールの手柄よの」 「まったくだ。 その上、公爵家の娘を娶るか……。 少々惜しいことをした気もするな」 アルチュールは顎に手を当てて考え込んだ。 孫娘を娶らせようかと口に出したのは、多少本気であったのかも知れない。ただ、リシャールはアルチュールの孫娘に会ったことはなかった。彼女はトリスタニア近郊にある魔法学院に通っており、寄宿舎に入っていたからだ。 そう言えば、リシャールはアルチュールに言っておかねばならないことがあるのを思い出した。 「アルチュール様」 「なんだ?」 「実は、せっかくお墨付きを頂戴しましたのに、爵位と領地を得ることになったために、ギーヴァルシュの加工場にまで手が回らなくなりそうなのです」 「うむ、まあ、それは仕方なかろうな。 しかし、あれをそのまま潰すのはどうかと思うぞ? 勿体なくはないか?」 アルチュールとしても、税収に関わる。 「はい、そこで売ってしまおうと思っています。 今取り引きをしている、アルトワの商人あたりを考えているのですが……」 リシャールとしては、デルマー商会あたりに引き取って貰えればよいかとは考えていた。彼ならば間違いはあるまい。 「ふむ。 その場合、お墨付きはどうする?」 「はい、相手方に今の製法をきっちり引き継いでもらった上で、アルチュール様に品質を確かめて頂いてから、お墨付きを継続するか否か決めていただくというのはどうでしょう? もちろん、二割の御印税も引き継いで納めて貰うことになります。 アルチュール様にとっては税収ももちろんですが、品質の方はお墨付き、ひいてはアルチュール様とうちの商会の評判に関わるものですので、出来る限りそのままの形で引き継いで貰うのが一番かと存じます。 品質その他が十分に引き継げているなら、私の商標もつけたままでいて貰うつもりです」 リシャールとしては、名前を売るのに丁度良いのだ。ラマディエで名を知られていたように、商会のブランド化を維持継続できればよい。これはデルマー商会にとっても、有利な側面を持つ筈だった。 「うむ、そう言うことであれば話がまとまり次第、一度連れてこい。 その後は結果を見てから、と言うことでよいな」 「ありがとうございます。 引き継ぐにしても少し時間はかかると思いますが、その時はよろしくお願いします」 加工場の売値の方はどうしたものか。リシャールは、シモンになら安くしても構わないかとは考えていた。 それに、引継も含めてシモンが頷くかどうかは、まだわからない。 「しかし、これで貴族院の方も確実に押さえられるだろう 。 あとはお主の腕次第だな」 「はい」 リシャールは力強く頷いた。 侯爵家を辞したリシャールは、祖父と別れてデルマー商会へと向かった。 支店長のヴァランタンが応対してくれたが、シモンは生憎アルトワにいて、しばらくはこちらに来る予定もないのだと言う。 ついでにアルトワ伯や実家の家族らにも報告しておくかと、リシャールはアルトワに向かうことにした。今ならば、祖父の屋敷に寄ってからでも日のあるうちに到着できそうだ。 祖父の屋敷にとって返したリシャールは、アルトワ伯への手紙を預かって早速向かうことにした。 「きゅー……」 「ごめんアーシャ。 アルトワに着いたら、真っ先にアーシャのごはんを用意するから」 「うん。 ……ぜったい?」 「約束する」 そういうリシャールも、昼はまだであった。今日のところは夜まで我慢するしかないだろう。 アーシャの機嫌を取った後、実家に戻ったものの誰もいなかったので、リシャールは城館の方に顔を出してみた。エルランジェ伯からの手紙もあるので、クリストフの元に祖父と両親も呼んで貰うことにする。 集まってもらった家族らに、深呼吸をしてから叙爵と婚約について報告した。 「男爵じゃと!?」 「それはまた……」 「まあ、お嫁さん!」 「ふむ、婚約の方は私も聞いていなかったな」 カトレアの件はともかくも、クリストフは叙爵についてさえ話していなかったらしい。家族の驚き様にリシャールの方がびっくりしたぐらいだ。 「ねえリシャール、お相手の娘さんの事を聞きたいわ」 母は爵位よりもそちらが気になるようである。父と祖父は、顔を見合わせたまま固まっていた。 「はい、とても優しくてあたたかな人です。 七つ年上ですが、とても可愛い人なんですよ」 「まあ、今すぐにでも会いに行きたいわね」 「母上ごめんなさい。 少し体の弱い方なので今は無理です。 でも、療養が終われば大丈夫だと思います」 それを聞いたクリストフが、大きく驚いていた。 「ちょ、ちょっと待ってくれ、リシャール。 体の弱いと言うと、君のお相手はもしかして、例の……?」 「はい、クリストフ様。 ご想像通り、ラ・ヴァリエール公のご息女、カトレア様です」 クリストフは頭を抱えた。よりにもよって、というところだろうか。 「……もしかしなくても、君が領地よりも爵位にこだわったのはこの為かい?」 「あー、実はそうです」 見る人から見ればわかるものらしい。リシャールは頭を掻いた。 ようやく精神的再建を果たした父と祖父が、リシャールに声を掛けた。余程驚いたらしい。 「ま、まあ、理由はともかくも、お前はラ・クラルテの誉れだ」 「何事も、途中で投げ出すことは出来ないぞ。 しっかりやりなさい。 ……しかし、なんだ」 「はい、父上」 父はリシャールの耳元に口を寄せ、小声で言った。 「よくやった」 「父上のおかげでもありますよ?」 「……そうか」 自分たちの馴れ初めをリシャールに話したのが失敗だったのか、そうでなかったのかと、しばらくの間悩むことになったクリスチャンである。彼自身も勲爵士の長男にして伯爵令嬢を妻に迎えていたから、息子のことはとやかく言えない。 まだ先のことではあるが、結婚式などで新郎の父として公爵の傍らに立つことを思うと、息子のためとは言え少々気鬱になるのも仕方なかった。 「そう言えばリシャール、家名や紋章は決めたのかい? ラ・クラルテ家の当主はニコラだから、そのままというわけにもいかないだろう?」 「すみません。 まだ考えていませんでした」 「貴族院で審議されるあたりまでには考えておかないといけないよ?」 「はい、ありがとうございます」 リシャールは、もちろん家名など考えてもいなかった。そのような余裕など無かったのである。 いいかげんな物というわけにもいくまいが、かと言ってあまりに仰々しいのも考え物だった。悪目立ちするのもいけないのである。由来がそれなりにあるならば、それでいいのだ。 この家名の由来というのにも、様々なものがある。多いのは、領地拝領によって移り住んだ地の名前をそのままつける場合だ。 他にも、例えば火のメイジが功績によって一家を立てたのであれば、それを記念して火に関係する名前をつけたりと、様々な由来がある。ラ・クラルテにしてからが、清く澄んだ小川が流れる地に住んでいたからという理由で、ラ・クラルテ家初代当主によってつけられた名であった。その後、ご先祖はアルトワに移り住んだが、もちろん名はそのままである。 リシャールの場合も領地を拝領するのでそのままつけてもよかったのだが、二つの地となると土地土地のやっかみなどを含む可能性もあるので、別の名を付けた方がいいのかも知れない。 一つだけ気をつけなくてはならないのは、家名が他家と重ならないようにすることだった。これは二、三の候補をつくってから貴族年鑑で調べ上げればよいだろう。 まあ、今日明日でなくても良いかと、リシャールは後回しにすることにした。紋章は名前に関係する図案で、なるべくシンプルな物にしたい。日の丸というわけにもいかないだろうが、商売にも関係するので覚えて貰いやすい方がいいのだ。 その日はお祝いと言うことで、伯爵家で家族揃って晩餐をご馳走になった。その後はリシャール自身を酒肴としての宴席となったが、こればかりは仕方がないのだろう。逆の立場なら、リシャールもそうやって相手を祝うはずだ。めでたいことなら少しぐらい羽目を外しても許されるのは、世界が変われど同じなのである。 翌日、少々酔いが抜けきってはいなかったが、リシャールは早い内にデルマー商会を訪ねた。 約束を取り付けていたわけではなかったが、幸いシモンは時間を割いてくれた。 「やあリシャール君、こちらに戻っていたのか? 加工場の方も大きくしてくれたようで、こちらとしても助かっているよ」 「おはようございます、シモン殿。 早速で申し訳ないのですが、その加工場のことでご相談があるのです」 「何かあったのかい?」 内々の事なのですがと、リシャールは叙爵とそれに伴う商会の再編と、加工場の売却についての話を切りだした。もちろん、お墨付きの要件や、門外不出にしている製法の譲渡の一切を含むと言うことも付け加える。もちろんの事、デルマー商会とは独占契約を結んでいるので、売上高そのものは筒抜けであった。 「油漬けの方で問題でも起きたのかと思って心配したよ。 しかし、そういうことなら喜んで引き受けさせて貰おうか。 うちとしてもね、イワシの油漬けは結構無視できない商品になっているんだ。 しかし、君が男爵か……。 切れ者だとは常々思っていたがやはり大したものだ、おめでとう」 「ありがとうございます。 それからもう一つついでに、ギーヴァルシュ侯のお墨付きに加えて、うちの商標もいっしょに記していただきたいのです。 もちろん、うちの方は無料です」 「……なるほど。 加工者は変わっても、品質は間違いないとラ・クラルテ商会が保証すると示すわけだね」 さすが豪商、商売事には慣れている。リシャールの言いたいことは、すぐにわかってくれたようだ。 「そうです。 新領地の方でも加工場は作る予定ですが、領地の経営もありますし、主軸には出来ないんです。 それに、うちとしても店が傾いて加工場を売ったと思われるのも心外なんで……。 これは加工場譲渡の決定後になりますが、この件で、一度ギ−ヴァルシュの領主様からシモン殿をお連れするようにと言われています。 こちらもよろしいでしょうか?」 「もう譲渡については侯爵様の内諾を得ているのかい?」 「はい」 「それならば構わないよ。 むしろ、侯爵様ならばこちらからお会いしたいね。 それでリシャール君、譲渡費用はどのぐらいになるのかな?」 譲渡費用の方は、本当に考えていなかった。ともかくも、ギーヴァルシュ侯爵に失礼がなく、シモンに損がなければいい。売却益の方は、シモンが条件を呑んでくれるならゼロでも構わないのだ。このような判断基準がギーヴァルシュの公子から不思議に思われたりする原因にもなっていたのだが、リシャールの方は未だそのことに気が付けないようであった。 「あー、実は考えていないんですよ。 どうしたものかと悩んでいます。 建物はそこそこに立派ですが、利益が低いので……。 それに、シモン殿には無理に押しつけてしまう形になりますからね」 リシャールとしては、シモンのおかげで流通経路を確保できたという面もあるし、世話にもなっているので強くは出にくい。個人的にも、彼のことは気に入っているし、信用もしている。 「まあ、うちは手間の分利益が上がるので、余り気にしなくてもいいよ」 「うーん、では建物の価値を査定して、その半額を今回の取引の代金とするのはどうでしょうか? もちろん、先に申し上げたお墨付きや引継に関しても含めてです」 「いいのかい? 君がかなり損をしているような気もするが……」 「私としては、ギーヴァルシュ侯爵様に顔が立つかどうかの方が問題なので、これで構いません。 無理を申し上げているのも承知しています。もっと安くても構いませんよ?」 建物は自分で建てたので、値段の方は気にしていなかった。もちろん、トライアングルのメイジを雇って建てさせたと考えるなら相当にいい値段にはなるから、通常の取引として考えるならば破格値ではある。 「いや、リシャール君がそれでいいならその様にしよう。 あまりに安いと、こちらが申し訳ないよ。 決まりでいいかな?」 「はい、即決していただいて感謝します。 正式な書類はすぐに用意しますので」 十分以上に値引きをしたせいか、急ぎの上に無理を言ったにも関わらず、シモンは加工場を引き受けてくれた。 このあたりはリシャールへの信用とも甘さとも取れるが、シモンが気安く受けた理由は別にあった。ラ・クラルテの名がそれを後押ししいている。 ラ・クラルテの人間がアルトワの人々に対して累を及ぼすようなことはこれまでもなかった。それに、仮に不可抗力で何か事があったとしても、伯爵家からの補償が引き出せるだろう。そのぐらいにはラ・クラルテの信用が厚いのは、アルトワで代々商売をしている商家の主人であるシモンには、お見通しだったのだ。 「リシャール君、もしよければ新しい加工場の方も専属で契約しようか?」 リシャールも早々に建てたいところだったが、資金はともかく人がいないのだ。いっそ、こちらもシモンに丸投げというのもいいかもしれない。 そこまで考えて、リシャールは気付いた。 「あ!」 その手があったかと、リシャールは思わず口から言葉が漏れる。 「ん!? どうかしたのかい?」 「いや、ちょっと……。 私は今後商会の会頭ではなく、領主として頭の切り替えをしないといけないないなと、そう思ったんですよ。 おかげで大事なことに気が付きました。 ありがとうございます、シモン殿」 「うん?」 リシャールは頭を下げたが、シモンにはもちろん何のことかわからず、首を傾げていた。 「どういうことなのかな、リシャール君? よく飲み込めないんだが……」 「ごめんなさい、先走ってしまいました。 えーっと、商人が追いかけるのは利益ですが、領主が追いかけるのは税、ということに気が付いたのですよ」 シモンはなるほどと頷き、納得した。 「私も流石にその視点からは、商売を眺めたことはなかったなあ。 こういうことは、どうしても自分の立場で考えがちになるね」 「お恥ずかしながら、私もです。 これは、イワシどころではなくなったかもしれません」 リシャールはこれまで、商会を発展させつつその利益を基盤に領地の開発を行おうと考えていたが、なんのことはない、他の領主と同じように税収を元にして、領内の商会や人間を使えば良いのである。むしろいくら自分の物とは言え、一つの商会に集中させ過ぎるのもよくないかもしれないなとも思い至った。 税金ならば納められてくるものをそのまま受け取ればよいが、商会は取引をするなり加工するなりして稼ぐという手間をかけなくてはならない。それが商人の醍醐味でもあるのだが、リシャールの場合は領主でもあり、また叙爵のための大きな借金を背負う予定の身でもあるから、流石に苦しかろうと自分でも思う。それらはまた、リシャールの身に余裕が出来てから再開すればいい。 その他の部分でも、すべてを自分の身に集中させることはないだろう。他人任せに出来る部分まで無理に背負う必要はないと、リシャールは気付いたのだ。 リシャールは、シモンに向き直った。 「シモン殿がこちらに支店なり加工場なりを出して下さるなら、私はとても嬉しいですが……。 ああ、これは税を納めて貰う側が言うことではありませんね」 「君らしいとも思うが、確かにそうだ。 でも、リシャール君は妙に義理堅いところがあるからな。 支店を出しても、私が損をしないようにはしてくれるのだろう? おっと、これは店を出す方が言うことではないのかも知れないがね」 はははと顔を見合わせて笑う。 「そうですね……税の棒引きは他の商人の手前出来ませんが、シモン殿が得意とする麦についてなら、良い取引が出来るかもしれませんね」 「うちの本業だからね、そのあたりを任せて貰えるならこれ以上はないよ」 今度もシモンは笑ってみせたが、リシャールの見るところ、それは商人の笑顔だった。これを見て良い笑顔だと思える辺り、リシャールもやはり商人なのだろう。 リシャールにとっては領主としても商会主としても、豪商と繋がっていることは、それだけで大きい。いい縁だ。 二人はがっちりと握手を交わした。 リシャールはデルマー商会を出た足で、そのままセルジュのコフル商会へと向かった。 「やあ、リシャール君」 「おはようございます、セルジュさん。 ちょっと相談事がありまして、よろしいですか?」 リシャールは、先ほどシモンのところで考えていたことも含めて、今後のことをセルジュに話した。 「実は今度爵位を得ることになりまして、直接商会の仕事をする事が出来なくなりそうなんですよ。 それで、ギルドの方などもどうしたものかとご相談に上がったんです」 「それはまたすごい出世じゃな、リシャール君。 しかし、商会の方はどうするんじゃ?」 「先程までは、商会を主軸に領地の開発をしようかと思っていたのですが、少し考えが変わりまして」 「ほう?」 「開発の具体的な部分は人に任せて、領地の舵取りに集中します。 商会の方は、逆に有名無実にしてしまうのも手かと考えました。 もちろん働いてくれている人それぞれの意見を聞いてからになりますけれど、せっかく集まってくれた人たちなので、そのまま家臣団に鞍替えしてくれると嬉しいですね」 そういえば叙爵の件は王都に来てからなし崩しに決まったので、マルグリットらには伝わっていないのだった。そのあたりは、ギーヴァルシュに戻ってからじっくりと話し合わないといけないだろう。 「なるほどのう。 まあ、マルグリットに否がないならわしは構わんよ。 ギルドの方も、不名誉での除籍や退会というわけではないから、特に咎め立ても責務もない。 それに当然、本拠地もそちらになるだろうからな。 ちと惜しい気もするが、こればかりは仕方なかろうなあ」 「はい、せっかく引き立てて頂いたのに申し訳ないです」 リシャールとしても、アルトワには少々申し訳ない気もするが、今更後には戻れないのだ。それに、領地の拝領と叙爵の件には領主のクリストフ自らも絡んでいるので、不義理を気にしすぎるという程でもない。 「それと、これはセルジュさんとの取引のお話になるのですが、一つお願いがあります」 「何かな?」 「領地には鉄の鉱山があるのですが、その開発を行いたいのですよ。 いまは鉱石のまま積み出されて行くだけなのですが、せめて精錬した鉄塊か、可能なら鋼材、将来的には鉄製品を製造したいので技術者が必要になります。 その仲介をセルジュさんにお願いしたいのですが……。 もちろんセルジュさんには、十分な仲介料をお支払いします」 セルジュのコフル商会は、鉄や木材の輸出入に強い商会である。リシャールとしても、セルジュの他に適当な人物を思いつかなかったのだ。 「暫く先にはなってしまうのですが、お願い出来ますか?」 「……少々時間はかかると思うが、構わないかね」 「もちろんです。 こちらも当初はそれどころではないので……」 「ふむ、そういうことなら知り合いを当たってみよう。 では、見つかり次第連絡を入れるということで、いいかな?」 「はい、お願いします」 セルジュの方も、快く引き受けてくれたようだ。 もちろん、それ相応に大きな費用がかかるとはリシャールも思うが、将来を見越せば十分に採算がとれるはずだった。 こうして一通りの挨拶と報告を終えたリシャールは、翌日、ギーヴァルシュへと戻っていった。 ←PREV INDEX NEXT→ |