ゼロの使い魔 ハルケギニア南船北竜
第三十話「婚約」




 リシャールと三人の領主達による会合は、ほぼリシャールが押し切った形で終わった。
 当面は、爵位を得るための工作費用も含めて後見する三者による持ち出しとされ、リシャールは分割払いでその全てを返済するということに決まった。
 二つの領地の取得費用に、貴族院工作なども含めた男爵家創設のための出費も合わせると、概算でも三十万エキューから四十万エキューと予想される。これは空海軍の二等戦列艦を新造できるほどの金額であったが、リシャールはむしろ気分良くそれを受け入れた。苦労せずに済んだと喜べるほどである。
 武功など、なかなかに得られる物ではない。それを主軸にして出世しようとなると、リシャールは生き方まで変えねばならなかった。しかし経営と言うことならば、商会も領地も同じ一言で括れてしまうのだ。商売は物を売って金を得る。領地は先に税を受け取って、安全や公益を提供する。少々乱暴だが、これならばリシャールの領域である。
 また、叙爵と領地拝領の方は、貴族院次第ではあるが、早ければ数ヶ月、遅くとも数年内と言うことで話が進められることになった。

 ギーヴァルシュ侯は、今一度お主の大口に乗せられてやろうと、上機嫌で帰っていった。
 アルトワ伯の方は、まあリシャールのやることだからと、あっさりした様子でにこにこと笑って馬車に乗り込んだ。
 先ほどギーヴァルシュ侯とアルトワ伯を見送ったリシャールは、今は祖父と二人で茶杯を傾けている。
「しかし、リシャールよ」
「はい、お祖父さま」
「お主には驚かされてばかりじゃがな、今度の件は極めつけじゃったぞ。
 領地のことは、わしらが話す前から考えておったのか?」
「はい。
 しばらく前にアルチュール様のお屋敷にお邪魔した折、お祖父さまとアルチュール様が仰って下さったのです」
「なんぞ言うたかの?」
「アルチュール様は孫娘と娶せても良いと、お祖父様は気になる娘がいるなら養女にと、それぞれ仰って下さいました」
「そう言えば、そんなことも言うたかの」
「もちろん、茶飲み話の延長であったとは思います。
 ですが実際の話、私がどこかの家に婿入りする可能性は高いなと、その時は思ったのです」
 下級貴族の三男坊とは言え、婿としてのお買い得度ではそこそこの格付けをされてもいいリシャールだった。祖父という後ろ盾もあり、本人もトライアングルのメイジであるから、跡継ぎの男子がいない子爵家や男爵家あたりならば、充分に目を付けてもいい物件だ。ただ、今後リシャールは当主となるし、貰う嫁もカトレア以外には考えていないので、こういった話も自然と消えるだろう。
「ふむ、確かに可能性の高い話ではあったが、冗談からそこまで考えを走らせるとはの。
 今となってはお主が嫁を取る方になったが……。
 じゃが、お主が話したことについては、それぞれに納得のいくものであったわ。
 少々恐ろしくもあったがの」
「そうなのですか?」
 恐ろしいと言われても、困る。だが、自分の中に眠る知識を少し出しすぎたような気もする。だが、これからはそうも言っていられないだろうとも思うリシャールだった。
「わしはの、お主がわしの孫で本当に良かったと思うた。
 わしがお主の味方であるように、お主もわしの味方でいてくれようからの。
 お主のような者が敵であったらと思っての、少しぞっとしたんじゃ。
 まあ、いらぬ心配というあたりじゃな」
「もちろんです、お祖父さま。
 ……そういえば、家を出るときに長兄から言われた事を思い出しました」
「ほう、リュシアンは何と言うておった?」
「不義理をせず、信用を傷つけず、自棄にならず。
 これを守れるなら、家を出ようと何をしようと、お前の好きにして構わないと」
「ふむ、その通りじゃな。
 正しき道を歩めば、自ずと結果もついてこよう」
 うむうむと祖父は頷いた。
「ところでリシャール」
「はい」
「嫁を取るなら、わしにまかせるのじゃぞ?
 アルの奴が口を挟む前にまとめてやるわい。
 いや、いっそ先に婚約だけ済ませてしもうてもええかの」
「お祖父さま、気が早すぎます……」
 まだまだカトレアの事を言い出せる状態ではないなと、リシャールは少し残念に思った。
 全ては、これからなのだ。

 翌日は、ラ・ヴァリエール訪問時の土産を買うために奔走した。さすがに生半可なものは贈れない。気が付けば、手持ちの四百エキューは半分ほどになっていた。
 公爵の分は祖父から手紙と共に酒を預けられて解決したが、女性陣への土産には少々困った。ご婦人への贈り物など、慣れていないのだ。ましてや、貴族でも最も上流に位置する女性達であるから尚更だった。
 そこで困っていたリシャールに、祖母が知恵を借してくれた。カリーヌには祖母お勧めの香茶の茶葉、ルイズには大きめのぬいぐるみ、カトレアには少々悩んだが品のいい髪飾りを贈ることにして、リシャールはトリスタニア中を走り回った。店の案内にと、祖父から従者を借りたほどである。あとから気付いて、エレオノールにもと上質の文具を買いに慌てて店に走ったのは、誰にも話せないことだった。王都に来たときには尋ねるようにと言われていたので、祖父に頼んで公爵家の別邸に使いを出して貰ったのだが、領地に戻っているとのことだったのだ。訪問のために買った生菓子は、アーシャの胃袋へと消えた。
 更に伯爵邸に戻って、それらをアーシャに乗せても問題ないように梱包していると、その日一日は終わってしまった。
 祖父からはそこまで気をまわさんでもと苦笑され、財布も随分と軽くなったが、リシャールの方はそういうわけにも行かないのだ。

 更に一夜明けて、リシャールは再びアーシャに乗った。
 王都からヴァリエールまでは直線で飛ぶなら丸一日はかからないので、夕方前には到着する事が出来た。
 先日と同じように出迎えられたが、今度は人数が増えていた。カトレアとエレオノールである。カトレアも以前より顔色も良くなり、やはり徐々に快復しているのだと実感してリシャールは嬉しくなった。
 リシャールは挨拶もそこそこにそのまま案内、というか家族の団らんに引っ張っていかれた。
「最近はな、カトレアも目に見えて元気になっておるぞ。
 リシャールを頼って正解であった」
「本当にそうですわね」
 三姉妹はお土産などを開けて楽しそうにしていたが、リシャールは公爵夫妻につかまっていた。
「そう言えば、エルランジェ伯からの手紙を預かっていたのだったな。
 ジェローム」
「はい、旦那様」
 筆頭執事は主人の求めるままに、リシャールが先ほど酒と共に預けた手紙を素早く取り出した。
 公爵は黙って手紙を読んでいたが、時折、片眼鏡をつけた方の眉毛がぴくぴくと動いていた。祖父モリスが何を書いたのか、詳しいことまではリシャールも知らない。大凡はリシャールの叙爵についてのこととは思うのだが、公爵の機嫌を損ねるような内容でありませんようにと祈るばかりである。
「あなた、どうかなさったのですか?」
「うむ……。
 リシャール」
「はい、公爵様」
 公爵はわざわざ立ち上がってリシャールに歩み寄り、その肩に手を置いた。
「お主の叙爵、心より祝うぞ」
「あなた、まさか……」
 カリーヌは相当驚いているようだった。
「カリーヌ、エルランジェ伯の手紙によればな、近々リシャールを男爵として諸侯の列に加える予定であるそうだ。
 しかしその若さで自らの家を立てるか、実に見事だ」
 しばらく黙っていたカリーヌだったが、取り繕うようにリシャールを祝した。もしかしてカトレアが既に話しているのかとリシャールは考えたが、この場で聞くわけにもいかない。
「ま、まあ、そうなのですか。
 おめでとう、リシャール」
「あの、まだ貴族院に掛け合ってさえもいないのですが……」
 リシャールとしてもそのつもりではあったが、実際には何もしていないに等しい。話が出たのはたったの二日前である。
「ふん。
 あんなもの、わしの一声でどうにでもなるわ」
 リシャールはもとより、祖父達にさえ言えない台詞であろう。流石、国家の重鎮である。
 しかもリシャールの叙爵には賛成の様で、口振りからすれば後押しさえして貰える可能性もあった。少し心に余裕が出来たリシャールは、貴族院への工作資金が減らせるかなあと、下世話なことを考えていた。
「ジェローム、ワインを持て。
 祝いだ、リシャール」
「あ、ありがとうございます」
 その頃になって、両親とリシャールの様子が常と異なることに気が付いた三姉妹が、こちらへと注意を向けてきた。
「お父様、何か良いことでもありましたか?」
 代表して、エレオノールが質問を投げかける。
「うむ、リシャールが爵位を得るのだそうだ。
 なのでな、祝杯をと思ったのだ」
「すごいわリシャール!」
「流石ね、私が見込んだだけのことはあるわ!」
「はい、ありがとうございます」
 ルイズとエレオノールは祝いの言葉を口にしてくれたが、カトレアは黙ったままだった。
「どうしたのです、カトレア?」
「ちいねえさま?」
 見ればカトレアは、口元に手を当てて静かに泣いていた。
「カトレア、あなた泣くほどびっくりしたの?」
 リシャールは、また彼女を泣かせてしまったようだった。ルイズが一生懸命カトレアの涙を拭っている。カトレアはリシャールと目があうと、それでも微笑んでくれた。
「あなた」
「なんだカリーヌ?」
「お気づきになりませんこと?」
「む、何をだ?」
 公爵は妻の言葉に首を傾げた。
「はあ、これだから……。
 カトレアとリシャールを見比べて、何か思うところはありませんかと、申し上げているのです」
「うん!?
 ……ま、まさか!?」
 公爵はあり得ないものを見たような表情で、口をぽかんと開いたまま固まった。
「リシャールは、カトレアとの結婚のために爵位を得る努力をしていたそうですわ。
 ……そうですね、リシャール?」
「は、はいカリーヌ様」
 リシャールは椅子の上で固まったまま答えた。まだ肩には公爵の手がしっかりと乗っているので、身動きがとれないのだ。
 カリーヌがその事までを知っているのに驚いたリシャールだったが、やはりカトレアが先に話していたのだろう。
「しかしな……」
「あなた」
「う、うむ?」
「考えてもご覧なさいな。
 リシャールの方は新興の男爵ではあれど、歴としたトリステイン諸侯となる予定、直系ではないものの伯爵家の孫でもあります。
 対してカトレアは公爵家の娘とは言え、親の贔屓目を抜きにすれば、病弱な上に社交界にも出していませんから、妻に向いているとは言えませんわね。
 それが歓迎されて嫁に出せるのです。
 これ以上の相手を思いつきますか?」
「むう……」
 カトレアが最初にカリーヌを味方につけてくれたのは、幸いだったとしか言いようがない。反対の立場に立たれていれば、リシャールでは論破のしようもなかっただろう。
 だがこの場では、ある意味最強の援護射撃であった。
「そういうわけで、わたくしは賛成いたします」
「私も賛成ですわ、お父様」
「わ、わたしも!」
 ここでカリーヌに加えて、エレオノールとルイズも賛成に回ってくれた。カトレアがそれを望むのなら、姉妹に反対する理由はない。
「カトレアは、もちろん聞くまでもないわね」
「はい、母様。
 ……お父様、だめですか?」
「うぬ……」
 カトレアはじっと父とリシャールの方を見つめた。
 リシャールの肩に置かれた公爵の手には、必要以上に力が入っている。
「あなた、リシャールが気に入らないのですか?
 それとも、カトレアが嫁に行くのが嫌なのですか?」
「そ、そんなことはないぞ……」
 公爵の手から少し力が抜けた。
「リシャールはカトレアとの約束を守った上に、出世競争にも勝てる実力の一端を示したのですよ。
 それに、カトレアの方もまんざらではない様子。
 この上何が不満なのです?」
「あー、いや……」
 カリーヌが睨んでいるのは公爵のはずだったが、もちろんリシャールの背中にも冷や汗が流れている。
「では、二人をお認めになりますわね」
「う、うむ」
 公爵もついに折れた。
 これで晴れて、リシャールとカトレアの交際が認められたことになる。
 しかし、とリシャールは思った。カリーヌが話を全部まとめてしまったので、リシャールの出る幕がなくなってしまったのだ。
 ちょっと情けない気もしたが、カトレアが嬉しそうなのでこれでいいのだろう。
 そう思い直してカトレアに微笑んでみると、彼女は泣き顔の戻らぬままリシャールに抱きついて、また涙を流したのだった。

 カトレアが落ち着いてからは、少し真面目な話になった。彼女の方も今はもう、姉と妹に付き添われて部屋へと戻っている。
「リシャールよ、カトレアの件は後で話すとして、実際のところ領地の経営の方はどうするのだ?
 まさか商会と両立出来るわけもなかろう」
「はい、ギーヴァルシュの方の加工場は、いっそのこと売ってしまおうかと思っています。
 身軽にしてから領地に引っ越して、加工場を売った資金を元に新しく何かを始めることになります」
「目算はあるのか?」
 既に公爵も夫人も、領主としての目つきになっている。リシャールも真剣に話を続けた。
「はい、今度は鉱工業に手を出そうかと思っています。
 幸い予定の領地には鉱山と港がありますから、物を動かすには好条件です。
 最初の数年はこちらの持ち出しになるでしょうが、今更数万エキューの借財が増えても大した違いはありません」
「お待ちなさいリシャール」
「はい、カリーヌ様?」
 カリーヌから待ったがかかった。公爵の目も少し厳しくなっている。
「あなたは爵位を得るために、どれほどの借財をしたのです?」
「概算ですが、最終的には三十万から四十万エキューぐらいになる予定です」
「まあ!?」
「それほどか!」
 公爵夫妻は揃って驚いた。公爵家にとっては家が傾くほどの金額ではないが、十三歳の少年が背負うには余りに大きい。
「カトレア様に待たせ過ぎだと怒られたくないですし、私の方も長く待つのは嫌ですから……」
「それだけの理由で、この借財なのか?」
「もちろんです。
 流石に祖父らには、本当の理由は告げていません。それにカトレア様を思えば、このぐらいどうということはありません。
 確かに大きい金額ではありますが、それほど無茶でないとも思っています。
 そうですね……十年足らずで返済出来るでしょう」
 年に四万エキュー返済するとして、四十万なら十年。気分的には家を買うようなものだろうか。
「待てリシャール、相当に大きい領地としてもたかだか男爵領、十年では足りぬであろう?
 また、お主の持つ商会も、そこまでは大きくなかろうに」
「そうですわね。
 それとも、別に収入の元になる物があるのですか?」
「はい、あります」
「む、あるのか!?」
 二人からは少し険が取れた。返せないような借金を背負った相手に、進んで娘を嫁がせる親はいない。
「はい、もしかしたならば、公爵様はご存じかも知れませんが……」
「うむ?」
「『亜人斬り』という名の両手剣について、お聞きになられたことはありますでしょうか?」
「あるぞ。
 王軍ルメルシェ連隊の新装備であろう。
 なんでも亜人が紙の如く斬れるとか……」
 公爵は変な物を見るような目つきになった。
「まさか、あれはお主か!?」
「はい。
 ルメルシェ将軍はたいそうお喜びで、一本につき千エキューを出してくださいました。
 錬金鍛冶にも慣れてきましたので、集中すれば数日に一本は同じ品質の物を作ることが出来ます」
 カリーヌは納得したように頷き、公爵は椅子に深く腰を落とした。
「……言葉を失うとはこのことだな。
 まだ爪を隠しておったか」
「あなたを信じたカトレアの読みに狂いはなかった、と言うことですね」
「ありがとうございます。
 お二方にそう仰っていただけるなら、とても誉れ高いことです」
 リシャールは素直に礼をしてみせた。
「ともかく婚約は認めてやるし、貴族院の方にも声は掛けてやる。
 だが、結婚はそちらが落ち着いてから、と言うことで良いか?
 こちらにもお主にも、相応の準備というものが必要であろう」
「はい、お心遣い感謝いたします」
「リシャール、もう一つ気がかりがあるのですがよいですか?」
「はい」
 カリーヌは少し心配げに、リシャールの方を見た。
「世継ぎについてはどうするのです?
 辛いことですが、カトレアは子に恵まれない可能性もあるのですよ?」
 貴族の元に嫁ぐ娘にとって、それは一番大事なことであった。子孫を残してこその貴族である。
「そちらの方は……実は余り気にしていません」
 アーシャが何とかしてくれるから、とは言えないのでそれらしい理由を考える。最近は嘘が多くなってきたなと反省しきりだ。
「どうしてです?」
「今後のカトレア様のご様子次第ですが、体力が人並みにまでなられるなら、子を授かることも不可能ではないと思います。
 もちろん、無理をしてカトレア様の命を縮めるようなことになるぐらいなら、私の一代で家が廃されても構いません」
「なんと!?」
「元々カトレア様とのことがなければ、爵位を得ようなどと思いませんでした。
 子々孫々家が栄えれば、それは喜ばしいことではありますが、私にとって大事なのは爵位や家ではなく、カトレア様です。
 それに私は勲爵士の三男坊ですから、一代の男爵でも十分に良い夢を見たと言えます」
「……覚悟はあるようですね」
「はい」
「うむ、良いだろう。
 だがなリシャール、そんな無理はせずともよい。
 そう言う場合は養子を取っても構わんのだぞ?」
「はい、公爵様」
 リシャールは一息ついた。公爵夫妻も一通りの品定めを済ませたのか、先程までのような雰囲気ではない。
「それにしても……」
「どうかしたのか、カリーヌ」
「カトレアから、リシャールが結婚のために爵位を得ようとしていると話を聞いたときには、十年二十年は待つつもりでいたのですが……。
 まさか、僅かひと月余りで本当にその算段を立ててしまうとは、心底驚かされましたわ」
「ふむ、降誕祭明けにリシャールと初めて顔を合わせてからでも、まだふた月少々であったな。
 見事な離れ業だ」
「その、種明かしをいたしますと、知らぬうちにですが、祖父らが私に一家を立てさせようと動いておられたらしいのです。
 私はそれに便乗し、爵位を得たいとわがままを申しました」
「そうであったのか」
「はい、降って湧いたような僥倖でした。
 もちろん、祖父らの顔に泥を塗るわけにもまいりませんので、真面目に勤めを果たします」
 もう目的は果たしたからと、爵位を投げ出すわけにはいかない。
「無理をしてはいけませんよ、リシャール。
 いかにカトレア大事と言えど、これからは領民にも責を負うのです」
「心得ました」
「そういえば、家臣のあてはあるのか?
 しばらくであれば我が家からも貸してやるが……」
「心強いお言葉、ありがとうございます。
 それについてですが、基幹となる者達は商会から引き抜いてしまうつもりでした。
 商会ですので計数に強い者はもちろん、働き手には元侍女やメイジの卵もおります。
 カトレア様をお迎えするまでには、まっとうな家に仕立てます」
 その三人で商会の全員ですとは言えなかった。また、領軍については、ジャン・マルクを隊長にしてしまえばよかろう。メイジではないが、リシャールの見るところ信頼と能力は十分のようだ。
「ふむ、よく練ってはおるようだな」
「そうですわね。
 それとリシャール、あまり婚約者を放っておくのもいけません。
 ここはもういいですから、カトレアの所にお行きなさい」
「そうだな。
 それがいいだろう」
「はいでは。
 この場は失礼を致します」
 娘のことであれこれと会話を続ける公爵夫妻に一礼をし、リシャールはテラスを後にした。







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