「罰ゲーム」




 何故こんな事になっているのだろう……?
 私は再び彼と向かい合っていた。
 二人しか居ない部屋には、先程までの勝負の時とは、また違った緊張感が走っている。

「本気……なのか?」

 彼は静かに肯定し、『道具』を並べはじめた。
 私でさえ知っている丸いものの他に、先の尖った特殊なものさえある。
 彼の目は、本気だった。

「やめろって!
 た、たかがゲーム勝負の罰ゲームじゃないか!
 それでこんなことまでさせられるなんて……あんまりだと思わないのか!?」

 だが、彼は答えない。
 じっと私を見下ろしているままだ。

「俺達……そんなことをする関係じゃなかったはずだろ?
 やめてくれよ、いまならまだ……」

 しかし彼は、情けなくも懇願する私には構わず準備を終えた。
 ちらりと見える指先。
 照明が逆光になって表情がよく見えないが、得物を前にした豹のように、舌なめずりをしている様にも思える。
 ……気のせいではないだろう。

「いや、え!?
 ちょっと、待て、まだ心の準備が……」

 彼は待たなかった。
 慣れた手つきで『道具』の一つを手に取る。
 私の中で、焦燥と不安が駆けめぐった。

「あ……」

 彼の指がそこに触れる。
 位置を確かめているようだ。
 微かに彼が手に持った道具が触れる。
 その柔らかさから、脱脂綿だとわかった。

「くすぐったいよ……やめてくれよ……」

 脱脂綿が私の『あな』の周りを清めていく。
 デリケートな部分なだけに丁寧に。
 ごく、ごく、ゆっくりと。

「ふう……はっ……」

 実際はそう長い時間ではなかったのだろうが、その数倍には長く感じていたはずだ。
 私の心臓は、今も早鐘を打っている。
 緊張の糸がこの上もなく張りつめていた。

「ふはあ……」

 やがて。
 脱脂綿がそこを拭う気配が消え、私は一息ついた。
 再び、ちらりと彼の指先が見える。
 彼はもう一つの道具に持ち替えていた。
 
「……っつ!」

 堅い感触が。
 『あな』のまわりを探るように。
 そろり。
 そろり。

「あ!」

 ちらりと見えたそれ……彼が持ち替えたもう一つの『道具』はそう大きい物ではなかったが、とてつもなく大きい感触で私の『あな』の中に入ってきた。

「はぅ……!」

 入ったばかりだというのに、その『道具』はぐりぐりと容赦なく動いた。

 前後に。
 あるいはぐるりと回され。
 時は内壁を擦るように。
 
 無論、人にそれをされることには慣れていない。

「くっ……」

 永劫にも似たその時間は、ある種異様な、それでいて心地よいような感覚を私に刻んでいった。

「はあ……はあ……はああっ!」

 一際大きくその「道具」はわたしの『あな』をえぐり込んだ。
 大きく息を吐きたいのを我慢して、その感触に耐える。
 きつい。
 少し痛いような気もする。

「ああぅっ!?」

 暫くして。
 するりとその『道具』は抜かれた。

「お、終わったのか?」

 私の言葉に彼は首肯し、『道具』を片づけはじめた。
 やはり、表情は見えない。
 私は、落ち着きを取り戻しつつあったが、息が整わないこと甚だしかった。
 『あな』から『道具』を抜かれても、はっきりと感覚が残っている。

「今度は……勝つからな……」

 ただ……不快感はない。
 強引にされるうちに、体がその行為を受け入れてしまったのだろうか?
 そして。
 またいつか、こういうことをされてしまうのだろうか……?
 今度は……私が彼にそれをするのだろうか。

 私は、その姿勢のまま彼を見上げるのだった。

(了)

作者注
『あな』=耳の穴
『道具』=綿棒







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